おじさん映画

おじさんに注目して映画を語るブログ

サイドウェイ(2004):元妻を忘れられないワイン好きなおじさん

f:id:ttlfilms:20200420221325j:plain
中年男性の危機を描けば右に出るものがいないアレクサンダー・ペイン監督の作品のなかでも、群を抜いているのが2004年に公開された『サイドウェイ』(原題:Sideways)だろう。

 

小説家を目指しながら英語教師をしているマイルスは、離婚した元妻のことを忘れられずにいる。ワインについてはプロ並みの知識を持つ彼だが、大学時代の悪友ジャックの結婚式の1週間前、男2人でカリフォルニアのワイナリー巡りの旅に出かける。『サイドウェイ』はそんなおじさん2人の旅路を追うロードムービーだ。

 

なんといっても主人公であるマイルスを演じるポール・ジアマッティのダメ男ぶりがこの映画を際立たせている。

旅のはじめは二日酔いで遅刻し、実家に寄って母親の誕生日を祝ったかと思えばタンスの母親のヘソクリからお金を拝借し、2年経っても離婚から立ち直れず、いつか復縁できると心の底では信じていて。

行きつけのお店のウエイトレスの好意は「チップのためだ」と言ったり、すぐキレるし酔っぱらうし、本当にどうしようもないおじさん、なのだが、観進めるうちに、なんとも愛おしくて、いつのまにか心から彼を応援してしまっていることに気づく。

 

f:id:ttlfilms:20200420225413j:plain

マイルスというおじさんは、自分の気持ちに素直で、一生懸命なのだ。

怒ってみたり、ひねくれてみたり、あきれてみたり、いつも一生懸命なのだ。その一生懸命さが、笑ったり、他人を思いやる気持ちでも表れているから、愛おしく、応援したくなるのだろう。

 

この映画の一番のたのしみのひとつはポール・ジアマッティのダメ男の演技の秀逸さ。

哀愁漂う表情、やや猫背な姿勢、坂の下り方、荷物を落としながら走る様子、ベッドで寝転んでふさぎ込む様子、そのすべてが他を寄せ付けないダメ男具合だ。

 

f:id:ttlfilms:20200420230837j:plain

そんな圧倒的ダメ男のマイルスだが、旅先のレストランのウェイトレスのマヤとだんだんと親密な関係になっていく。

結婚前に女性と遊ぶことしか頭にない悪友ジャックと、奥手なマイルスとの対比もこの作品の見どころのひとつだろう。ジャックはことごとくみだらに描かれる一方で、マイルスとマヤの関係は限りなく美しく、爽やかに描かれる。

 

元妻の再婚を知らされ意気消沈しホテルの部屋で無碍に時間を過ごしていたものの、夜になり一念発起しシャワーを浴び、マヤの働くレストランに歩いて向かうシーンは、歩く彼のにやける表情が見事だ。

そしてこの映画の終盤でのヤケ酒の場面は、一般的に想像するようなヤケ酒の形ではなく、すべてが詰まっていて、美しさすらある。

 

中年男性の危機を描くことを得意とするアレクサンダー・ペインが監督し、ポール・ジアマッティのダメ男演技を堪能できる『サイドウェイ』は、おじさん映画としては避けては通れない一本だろう。

 

サイドウェイ (字幕版)

サイドウェイ (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video