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ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅(2016): 魔法使いに囲まれ自分を知るおじさん

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ハリーポッター』シリーズの前日譚である『ファンタスティック・ビースト』シリーズの1作目である『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は、蓋を開けてみればおじさん映画の魅力にあふれている。

 

主人公はエディ・レッドメイン演じる魔法使いで魔法生物学者のニュートだが、彼の一連の騒動に巻き込まれるのが、ダン・フォグラー演じるジェイコブ・コワルスキーだ。ジェイコブは缶詰工場で働く一方でパン屋を開くことを夢見るものの、担保がなく銀行で融資を受けられないでいる一介のおじさんで、魔法使いではなく、人間である。

人間と魔法使いは同じ世界に住んでいるものの、魔法使いは人間に知られてはいけないというルールがあり、人間は魔法使いの存在を知らずに生活している。そのため、仮に人間に魔法を見られた場合には忘却魔法をかけて忘れさせなければならない。

 

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ジェイコブはニュートの持っているはずだった魔法生物の入ったトランクと、自身のトランクとを入れ違いで持って帰ってしまい、トランクから魔法生物が逃げ出してしまったことから、魔法使いたちの騒動に巻き込まれることとなる。

ニュートと一緒に逃げた魔法生物を探すことになるが、そこで2人の女性魔法使いのティナとクイニーと出会い、彼ら4人で行動を共にするようになる。

 

物語の本筋は、逃げた魔法生物を探して捕まえることと、魔法使いたちを震撼させているニューヨークで起こっている怪奇現象の真相を明らかにすることだが、今回はひょんなことから魔法使いたちの世界に巻き込まれてしまったおじさんであるジェイコブに焦点をあてたい。

缶詰工場で日々働きづめの毎日を送るジェイコブにとって、魔法使いたちと出会って見る世界はすべてが新しく刺激的だったことは間違いないだろう。一方で、魔法使いたちにとっても人間ジェイコブとの出会いは刺激的だったのだと思われる。

 

魔法生物学者のニュートは、魔法生物に対しては愛情深く接するが、一方で人間(魔法使いを含めて)に対しては、接し方があまり上手くなく、他人から誤解されることも多かった。

人間ジェイコブは、人付き合いの上手さと常に周囲をハッピーにする力を持っており、ニュートに対しても、騒動に巻き込まれているにも関わらず怒鳴ったり、拗ねたりすることなく、親しみをもって接している。また新しく触れる魔法の世界を受け入れて楽しもうとする姿勢もみられる。

ニュートはそんなおおらかなジェイコブの人間性に魅力を感じ、影響を与えられたことは間違いないだろう。また女性魔法使いのクイニーもジェイコブに惹かれ、恋愛感情を抱くようになる。

 

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※以下、結末を含むネタバレあります※

 

彼ら4人の活躍で一連の騒動は幕を下ろすが、人間ジェイコブだけは、人間界に戻るに当たって記憶を消されなければならないこととなる。

 

記憶を消すという別れを惜しむ場面で、ジェイコブは「本当ならここにはいなかったはずだ」と、記憶を消されることは仕方ないと言うが、これは仲間思いの彼が、残りの3人に悪い思いをさせたくないという気づかいだろう。

この場面でニュートは彼に対し、「(途中で記憶を消さなかったのは)君が好きだから。君は友達だ。助けてくれたことは忘れない」と話す。またクイニーは「あなたみたいな人は他にいない」と話す。この場面はいかに魔法使いたちにとって人間ジェイコブが与えた影響が大きかったかを物語っている。今まで無感情に人間たちに忘却魔法を使っていた彼らが、人間に自分たちのことを忘れてほしくないと感じているのだ。そんな彼らの言葉にジェイコブも涙腺を緩ませるが、最後は記憶を失う雨にうたれる。

 

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缶詰工場で働くひとりのおじさんだった彼が、魔法使いたちの騒動を救う手助けをし、「あなたみたいな人は他にいない」と言われ、ひとりのおじさんがヒーローとなった。

 

最後にパン屋として成功をおさめたのは、担保が手に入ったからではなく、一連の経験を経て、ただのひとりの工員ではなく、自分は自分であるという自信を持ったためであろう。

魔法使いに囲まれた環境では、人間であることが異質であり特別な存在であり、そのことが彼に「自分は自分しかいない」という感情を抱かせたのだと思われる。